大きな声で笑うデザイナー上原史寛さんが主夫だった件
僕が求人広告の会社に入社した時、制作スタッフとして働いていた先輩が、現在熊本県宇土市でグラフィック、ロゴ、パッケージ、キャラクター、イラスト、WEBのデザイン会社を経営している。
株式会社フミデザインの代表、上原史寛さんだ。
当時上原さんはいつもオフィスにいて、求人広告のレイアウトやコピーを考えてカタチにしてくれた。オフィスの奥にある制作の部屋から大きな笑い声が聞こえてくる。広告の打ち合わせをしながら上原さんが笑っているのだ。
その発想はさすがとしか言いようがない。
僕も人を「楽しませるには」とか「喜ばせるには」とか「笑わせるには」とか、いろんなことを考えるが、上原さんのデザインには加えて「感動」も入っている。じんとくるとか泣くとかじゃなくて、「すげえ!そう並べるとそうなるのか!」という感動だ。
日が経つにつれて僕たちは職場の仲間と休日も一緒に過ごすようになった。全員アロハシャツを着て海に行ったり、川でバーベキューをしたり。お酒を飲むとお姉さん座りになって大爆笑する上原さんを見て笑っていた。
そんな上原さんが求人広告の会社を退職。
「もっとお客様と対話しながら仕事をやりたい」と考え、求人に縛られない別の広告会社で営業を始めたのだ。
人生で初めて経験した営業職。
確かに人と接することは好きそうだし、デザインを追求するには、そのクライアントの仕事場や生活に入り込んだほうが手っ取り早い。
その仕事で色んな人との出会いがあり、色んなことを教わり大変有意義だったそうだ。その出会いの中で「独立したい」と思うようになり、2008年、29歳の時に地元熊本県宇土市でフミデザインとして開業した。
「最初は仕事もなく、半分主夫でした(笑)。」楽しそうに当時を振り返る。
しかし人柄も手伝って仕事は口コミで増えていき、農家や地元の商店、行政の人たちと出会う。その時に地元を愛する人たちの、仕事に対する「こだわり」や「情熱」に心を打たれた。地元に眠る原石を磨き、地域や人々の想いをデザインしたい、さらに仕事での繋がりだけではなく、人生の友をたくさん作りたいと思った。
それから11年、地域の方々に支えてもらえたからやってこれたと言う上原さん。確かに若い頃から「おかげさま」の気持ちが強いと感じていた。
最初は声やアクションが大きく、大げさだなあと思っていたが、それはデザインでも大切な「相手に伝える」という姿勢だったのかもしれない。
「これからは、若手デザイナーやクリエイター、地元でお店を出したいと思ってくれる若者がたくさん出てくるようなマチを作りたい」と上原さんは言う。
自分の子供が、「自分が住んでるマチは面白い、住みたい、働きたい」と思えるように、自分たちがそのキッカケになりたい、それが上原さんの今の目標だ。